冲方丁 マルドゥック・ヴェロシティ

複雑な気持ちだ。良い場面も多いが、嫌悪感の方が強い。それでも冲方作品をとりあえず購入しているのは、まだラノベよりはマシだと思ってるのだろう。自分は活字中毒が抜けていく過程にあり、あと10年もしたらたぶん冲方丁は読まなくなる予感がする。
硬派、残虐、それは良い。もっとやれると思うが、不足だとは思わない。
2巻の頭のフライト刑事の役どころのおいしさに嫉妬した。小説を映画的に読む人なら同意してくれるだろう。つまり、
・フライト刑事役の役者がまず「レイニーが変装したフライト刑事」としてマフィアに喧嘩を売る
・それを見ているフライト刑事本人(同じ役者)が「最悪だ」と叫んで泣く
・しまいにフライト刑事本人が切れて、レイニー以上のはっちゃけぶりでマフィアに特攻する
ここは今読んでも笑いで内臓が揺れる。この一連のカットを演じるのは役者冥利に尽きることだろう。
文章ではなく単語の羅列で書くのは別に構わない。感心はしないが、有り無しで言えば有りだと思う。
浅いのも気にしない。さんざん引き伸ばした一族の秘密を、きっちり10ページで立て板に水のように説明しておしまいにするのも、狙いのうちではあるのだろう。まあ、冲方丁だし、みたいな。深みを求めて手に取る本ではない。
悪いのは洒落。キャラクターの名前を洒落で決めるな。萎える。日本人ならこのくらい分からない(分かっても気にしない)みたいに馬鹿にされてる気がする。ボイルドとか、こんな名前で真剣に読めって方がおかしい。
そもそも洒落が洒落になってない。mothとmossのどこが洒落なのか。海外で育った割に冲方丁はどうも英語ができない嫌いがある。たぶん辞書も引いてない。英語でこれなんだから、シュヴァリエの語呂合わせなんか滅茶苦茶なんだろう。アニメ輸出の際、恥ずかしい事になってないか心配だ。閑話休題
「おお、エクスプロード!」 はいはい、ドント・ストップ・ミー・ナウ/クイーン。繰り返されるこの場面が、自分にはギャグにしか読めない。
他にも鼻に付く場所は色々あったはずだが忘れてしまった。もっとも自分の嫌悪感の根幹は分かっている。冲方作品は一見殺伐に見えて、実は結構べたな感動物の要素を持っており、そこが自分には受け付けられない。