紅蓮ナオミ

紅蓮ナオミの「まさかの金太狼」のシュールで馬鹿すぎるカットが時々2chに貼られていたが、単行本が出たことを知って後学のために購入した。そしてあっさりはまった。刊行済みの全ての単行本を揃えるのに大して時間はかからなかった(まだ6冊だしね)。これほどの才能の持ち主ならと意気揚々と2chに行ったら単独スレがなかった衝撃は忘れられない。ただあとで冷静になってみると、紅蓮ナオミの作品について議論しようとしても大体「ワロタ」とかの短レスしか付かないように思う。
ジャンルは男性向けで言うところの原田重光が手がけるバカエロ漫画をそのまま性別だけ裏返したような、笑いを優先したスピーディなギャグ漫画。愛と性欲が原動力となるラブコメの形を取っており、ベタベタウジウジとした展開はほとんど見られず、シリーズの決着編で少しだけメランコリックになる程度だ。初単行本の「温泉ターザン」から一貫してこの作風であり絵的にも最初から完成されているので、同人あたりで充分経験を積んだ上でのデビューなのかも知れない。ともかくどれか一冊を読んで気に入ったなら全部大人買いして問題ない。それくらいぶれのない作風だ。
基本的に攻めも受けも端正な美形として描くことが多く、それが何か格好いいことを言ってるが下半身は丸出しという、その絵面だけで笑いが取れるところが強力な武器だ。2chで愛されるのもそのあたりが一番の理由だろう。
短編の話の組み立ても上手い。ワンテーマ、例えば「社長はエロシック」ならサラリーマンの仕事としてのセックスという無茶振りのあと、それを徹底的に掘り下げる。しかも馬鹿方向に徹底するのでとくに深みは生まれない。そこがいい。
紅蓮ナオミの作品は常軌を逸した馬鹿展開が何よりも強烈だが、それでも読んでいて気持ちいいのはほとんどの登場人物が全力で幸せになろうと真摯に邁進する姿のためだ。そこには何の後ろめたさもなく、問題は全てセックスで解決できるという潔さがある。読了後、楽しい気分以外に何も残らないというのは貴重な作風だと思うので、大事に育てていってほしい。

まさかの金太狼 (花音コミックス Cita Citaシリーズ)

まさかの金太狼 (花音コミックス Cita Citaシリーズ)