しまいずむ (1) (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ) 吉富昭仁

主人公は二組の姉妹。姉同士、妹同士は親友。そしてどちらの姉も、親友の妹に片思いしているという構造。ゆえに姉妹百合ではない。姉二人は14才の中学生、妹二人は12才の小学生ということもあり姉二人は自制しているが、その分行き場のない片思いは妄想を一方的に膨らませて変態の領域を漂っている。
女子中学生達の即物的かつ非現実的な妄想は突飛な願望を生み、大概それは成就せず、発展性もなく、他愛のないギャグとして収斂する。そしてその裏側で、変態的欲望を互いに遠慮なく晒せる関係である姉二人に立ちつつある百合フラグこそがこの物語の本命のドラマであるらしい。


吉富昭仁の絵柄は昔からどこか作り物っぽい人工的な印象を与え、その意味では唯登詩樹にちょっと似ている。そしてこれも似ているのだが、吉富昭仁はアイディアを直球で表現する。巧みな仕掛けや人生の機微みたいな工夫はしないし、多分できない。話は分かりやすくて誤解の余地を残さず、余韻もあまり残さないのだが、潔くアイディアで勝負するスタイルが吉富昭仁のかっこいいところだ。
吉富昭仁は暇さえあれば絵を描いている、本当の漫画好きだということを話していたのは衣谷遊だったか矢上裕だったかしろー大野だったか(うろおぼえすぎる)。読者として自分がそれを実感したのは吉富昭仁が「ローンナイト2 特別編 遥かな雲海の城」を上梓したときだ。自分のまったく信頼できない疑わしい記憶によればこのときローンナイトは掲載誌において中堅程度の立ち位置で、アニメ化やドラマCD化といった背景は何もなく、本編を雑誌に連載する傍らただ描きたいという理由だけで勝手に一冊分の外伝長編を描き溜めたものが、描き下ろし単行本として世に出たのだ。雑誌掲載を経てないので原稿料は出てないだろう。このとき自分は単純に尊敬した。連載ではないから一話ごとに引きを作るような縛りもなく、映画一本分に匹敵するボリュームの漫画をストレートに読む喜びに感謝もした。
そのあとは縁遠くなりEAT-MANなどは読んでないのだが、BLUE DROPあたりからまた自分の射程に入ってきている。もうベテランもいいとこの作家だが、もうしばらく見ていきたい。

しまいずむ (1) (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)

しまいずむ (1) (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)