鈍色のバタフライ(ウリキリ!ケムコ帝国 525円)が面白かった

緊張感のある良い作品だったので、ちょっと書いておく。レビューを探してる人のため、ネタバレを抑えた範囲で紹介。
閉鎖環境での殺人ゲームを強いられた、9人の高校生の物語。ボードゲーム人狼」をベースにしたデスゲームで、9人のうち1人が殺人者。残りの8人は生き残りをかけて誰が殺人者なのかをルールに則って推理しなければならない。DEATH NOTEのようなシンプルなルールの下の情報戦とドラマが好きな人に向いた作品と言える。
ステレオタイプな感はあるがはっきり特徴付けられたキャラクター、心の弱さと愛憎ゆえに理性や信頼が揺らぎ続けるドラマが緊張を生み、先を読み進めるのに充分なモチベーションを与えてくれる。
アドベンチャーゲームの形式を取っているがストーリーは完全に一本道。各所で出る選択肢は正解と間違いしかない二択の設問、間違えば即ゲームオーバーなので、選択によって展開が変わるようなゲーム性はない。故に変に気を回すことなく物語に没頭できる。テキストは主に会話とモノローグで進行するので携帯でも比較的読みやすく、長文小説を延々読まされるような苦痛はない。
なおこのゲームには二周目が存在する。展開は変わらないが、二周目では要所で各キャラクターの本音がモノローグで語られるようになり、物語の背景がより鮮明になる。既読分はスキップ可能。
興味を引かれたら、まずは試用版をプレイしてみて下さい。
では感想など。
主人公は何よりも仲間を大切にするタイプで、何とか皆を助けようと知恵を絞るのだが、物語は常に彼の想いを裏切り続ける。推理自体はそう大きく間違っていなくても、あと一歩足りないというところで仲間が犠牲になる、その悲劇の積み重ねが主人公を正気の淵へ押しやっていく。そこがいい。うまく行きそうで結局駄目という黄金パターンがむしろ心地良い。これはプレイヤーの破滅願望を満たすための物語なのかも知れない。
物語を支えるルールのシンプルさが良い。結局のところ殺人者は一人だけと分かっているので、疑心暗鬼といっても「自分以外全員敵かも知れない」というほどの複雑さはない。そして失敗を重ねて生存者が減るほど殺人者の候補も絞られてくるので、次こそ推理が当たるかも知れないと希望をつないでしまう。結末を知るまで読むのを止めることが難しく、読者をはめやすい構造をしている。
もちろん作りが良くても文章が駄目ならアウトだが、この作品は感情の機微と、難解にし過ぎない推理のバランスがうまいと感じた。ルールによって与えられた各々の役割と能力(何ができるか)と、各々が持つ動機(何を望むのか)の両輪で想像を巡らせる楽しさがあり、刻一刻と変わる状況と相まって退屈する暇を与えない。
アドベンチャーゲームというよりラノベに近いコンテンツと言えるが、携帯ゲームに求められる適切なボリュームだろう。充分に楽しめるが多過ぎることもない。上から目線で申し訳ないが、良い仕事というのはこういうことだと思った。
ちなみに一番のお気に入りはマッチョ兄さんの祐二。彼の行動原理がはっきりしてからはもう全力で応援してた。まあ彼のやり方が成功しては駄目なんだけども。