ごっこ 1 (集英社ジャンプコミックスデラックス) & 来世であいましょう 3 (幻冬舎バーズコミックス) 小路啓之

小路啓之がメジャーに返り咲いた。相手にされてなかったのか本人が避けてたのかは分からないが。小路啓之が売れない理由が分かれば自分も編集者になれるんじゃないかと思うくらい、小路啓之が売れない理由が分からない。彼の作品には漫画というメディアのいいところが全部詰まってる。脚本も演出も、セリフも人物造形も、叙情性もアクションも、読んでる間は五感を楽しませてくれて、読んだ後には考え込ませてずっと後を引く。デビュー以来、小路啓之に失望させられた覚えがない。しかしまあ二誌で連載できるなら、筆が遅いわけではなかったのだな。
そんなわけで「ごっこ」である、スーパージャンプ連載である。装丁はセンス悪いと言わざるをえない、これじゃ一見さんにジャケ買いさせられない。タイトルロゴにだっせえ英語を書かせたのは編集者だろ。ファンタスティックトゥルーラブストーリーだなんて枠をはめたら風味が死ぬっつの。帯もなあ、究極なんて言葉を安易に乱用するなよ。口汚いのはファンだからだよ。
絵をプリミティブな方向へ回帰させたのは新鮮な驚き。自由度が上がってて良い感じだ。ここからどんな風に表現の幅を広げていくのか期待が膨らむ。
登場人物もメインの親娘二人、ちょっと離れて婦警一人というミニマルな構成でとっつきやすくなってる。話を考える方はかえって大変だと思うけど。イハーブ以来、小路啓之は複数のキャラクターが猥雑に入り乱れるという印象なのだけど、メジャー向けに分かりやすさを大事にしてみたというところだろうか。
でも話の展開はやはり一筋縄ではいかない。誘拐してきた子供との生活なんて最初から破綻してるも同然だし、主人公のパパ(30歳独身)には次々来たるハードルを越えるには財力も甲斐性も不足している。きっと物語は長くともヨヨ子の就学前に終わるであろう。この危なっかしいのに心地よい綱渡り感覚は小路啓之作品に通底していて、これを味わいたくて読んでるようなものだ。中毒性があって再読性が高い。小路啓之作品をつまらないという人とは友達になれませんね。友達いませんけどね。


ついでみたいになってしまうが「来世であいましょう」3巻。タイミングがどうこうの前振りがあったので、ラストの爆発でも詰んではいないのだろうけど、次巻で終わりそうな感じがする。でも終わってほしくないな。おさらいを兼ねて1巻から読み直してみたけど、ナウはネガティブな言動が多くて一切に諦観しているように見えるが、実は結構まだ色々他人に期待してしまうし、そして裏切られては涙する、案外普通の不器用な男の子ってところが良い。見た目とは裏腹に感情移入しやすく、主人公としてはとても成功した存在だ。
ごっこ」も良いけどやっぱりこっちのトンデモ設定の上に違法増建築していく人間模様が真骨頂だと思うので、終わるなら終わるで新連載につないでほしい。「ごっこ」だけでは寂しすぎる。


ごっこ 1 (ジャンプコミックス デラックス)

ごっこ 1 (ジャンプコミックス デラックス)


来世であいましょう 3 (バーズコミックス)

来世であいましょう 3 (バーズコミックス)